天声人語で国語力をアップ

天声人語を読み直すのに、新聞の切り抜きや書き写しノートを持ち歩くのが面倒なので、ブログにアップしています。

締め切りを守らぬ電力会社

天声人語 2019/4/26より

作家の締め切り話を集めた左右社編集部編「〆切本」には、苦しい言い訳がいくつも出てくる。「風邪気味なもんで」から始まる高橋源一郎さんの場合、「こんどはワイフが風邪をひいちゃって」「ワイフの祖母が風邪をひいたんで実家に看病に」と発展する▼最後は猫にまで風邪をひかせる。そんな虚言を聞かされても「怒って暴れたりしない編集者はまさに神のような人柄といえよう」と高橋さんは書く。要するに編集者に甘えているのだ▼さてこちらは原発をめぐる甘えである。航空機でテロ攻撃された場合の備えを「5年以内」にするよう求められているが、締め切りに間に合わない。期限を延ばしてほしいと、三つの電力会社が原子力規制委員会に泣きついた▼遠隔操作で原子炉を冷却する設備をつくるため「山の掘削などに時間がかかる」と電力会社は主張する。みんなで頼めば国が何とかしてくれると思ったかもしれないが、規制委員会からは一蹴された。鹿児島・川内原発などが停止になる方向という▼テロなどめったにない、との甘さもあるのだろう。ついこの間まで北朝鮮がミサイル実験を繰り返していたのを忘れたのだろうか。そもそも巨大津波などあるわけがない、との油断から福島の事故が起きている▼「〆切本」には、きまじめな例もある。吉村昭さんは締め切り寸前だとパニックになるので、余裕を持って原稿を編集者に渡していた。「早くてすみませんが」と書き添えて。電力会社さん、聞いてますか。

 

〆切本